7年の月日を経て遂に開催された日本初の公道レース「A1市街地グランプリGOTSU2020」。日本全国から注目を集めた本大会の当日の様子をA1市街地レースクラブ事務局が写真とともにレポートします。
こんにちは。A1市街地レースクラブ事務局です。
2020年9月20日(日)島根県江津市。この日は朝から心地よい風が吹く秋晴れの空が広がっていました。
本大会の開催日を当HPで正式に発表したのはちょうど1年前の2019年9月30日でした。それから当日まで天候は最も心配なことの1つでしたが、台風もなく見事な晴天に恵まれました。
いよいよ大会当日の朝を迎え、私たちスタッフの緊張感も高まっていました。
前代未聞のスケジュール
「もう一つのミッション・インポッシブル」でも紹介した通り、今大会最大の難関の1つは“コース設営と撤去”です。
今大会の道路使用許可は、わずか”6時間”。
その短い時間の中で、738mのコースを設営*し、JAFのコース公認査察をパスして、レースを実施。更にレース終了後は完全撤去して交通規制を解除しなければなりませんでした。
*前日の一部仮設置を除く
9月20日のタイムスケジュール
9:00 | 交通規制開始、コース設営開始 |
---|---|
11:00 | 設営完了、最終調整 |
11:15 | パスゲートクローズ |
11:30 | コースクローズ |
2台慣熟走行2LAP→ピットイン | |
ゲストパレード走行(体験走行)(スペア車両を使用) | |
11:55 | 12台ピットアウト |
12:00 | フリー走行スタート(6分間) |
12:10 | 予選スタート |
12:25 | グリッド整列、選手紹介 |
12:40 | 決勝レーススタート(日章旗) |
13:05 | チェッカー |
13:10 | 表彰式 |
13:30 | レース全終了、コース撤去開始 |
15:00 | コース撤去完了、交通規制解除 |
16:00 | 車両撤去完了 |
江津市街地コースは、“GoTrack Barriers”というイタリア製のカート専用の安全防護体(バリア)を1620個使用します。この設置・撤去については事前に綿密なシミュレーションと実地訓練を行ったものの、実質予行練習なしのぶっつけ本番で挑みました。
6時間のうちに何事もなく無事に大会を終えることができるのか?
当日まで、スタッフ・ボランティアと共に万全の準備を重ねてきましたが、本番は一体どうなるのか。最悪、設営が完了できずにレースができないという事態が起こる可能性もないわけではありません。
私たちスタッフも不安と緊張に包まれていました。
大会前日、19日18:00から走路の一部許可された場所へバリアを設置することができましたが、これはあくまで歩道への仮設置でした。
そして大会当日午前7:30。
設営・撤去担当のボランティア約150名、全18チームがパレットごうつ広場に集合しました。ボランティアの中には、前日の仮設営に参加したボランティアと、9月初旬の研修以来、初めて合流するボランティアもいます。
ミーティングではチームごとに入念に最終チェックを行いました。ひとりひとりの目から、与えられた役割への責任と「やるぞ」という気合をひしひしと感じました。
一方で、ピットがある山陰合同銀行江津支店の駐車場では、早朝からカートの整備が進んでいました。
8:45
設営撤去ボランティアが各ポジションにスタンバイ。
9:00
交通規制と同時に設営開始。
市道チーム(ホームストレート)
県道チーム
市道チーム(合銀前)
国道チーム
設営は9時から11時の2時間を予定していましが、蓋を開けてみると予想を大幅に覆し、10:30頃には1620個すべてのバリアを設置し終えていました。
これにはスタッフだけでなく関係者全員が驚愕しました。スタッフと地元ボランティアで「今まで誰もやったことがないこと」を成し遂げたのです。
JAFコース公認査察
さて、コース設営に続きもう1つの難関がありました。それが「JAFカートコース公認」です。
カートコース公認とは、JAFの査察員が安全基準に従いコースを査察し、安全事項に関する勧告指導を行い、公正と安全性が確保されたコースであるとJAFが公認することです。JAF公認カート競技に使用されるコースは、JAFの公認が必要とされています。
本大会が画期的だった点は、街の中心地を使った公道レースであったことはもちろんですが、JAFの公認を受けたコースで、公認カート競技会を開催したことです。
わざわざなぜこんな大変なことをしたのか?とよく聞かれますが、その理由は、安全性の確保は当然のこと、「日本で初めてとなる公道レースは、公式なJAF公認競技会として開催するべきだ」という主催者の考え方があったからです。
なぜなら、日本のモータースポーツを統括するJAFに公認された正式な競技会ということは、この市街地レースが単なる草レースではなく、誰が見ても安全と信頼が確保されているということ。それが今後の日本のおける市街地レースの発展へと続く土台になると確信しているからです。
査察は2回あり、1回目の事前査察後に査察報告書で勧告指導が出されます。主催者は査察報告書の必要条件を満たすまでコースを改善し、2回目の直前査察をクリアするとコース公認を受けることができます。
江津市街地サーキットの場合、コースが完成するのはレースの1時間前ですので、それまでコースは存在しません。1回目の事前査察は、今年の8月中旬に道路上で行われました。道路の形状やコーナーの角度、傾斜などから、頭の中でコースをイメージしながらの査察でした。
そして迎えた当日。
直前査察はコース設営と同時進行で行われました。設置が完了したエリアからJAF査察員と主催者が一緒にコースを歩き、規定に従ってポイントをチェック。指導勧告があった箇所はその場で修正対応しました。
10:40頃
予想以上に設営が早く終わったため、当初は予定していなかった1台のカート走行によるコース検証を行うことになりました。カートが初めて公道を走行した瞬間です。
11:30
全ての必要条件を満たし、JAF査察員から主催者へ遂にコース公認が手渡されました。これでようやくレースを行うための全ての準備が整いました。フリー走行開始30分前のことでした。
その間、設営やコース査察の間、競技、警備、ホスピタリティなど、他のボランティアグループも着々と準備を進めていました。
エントリーリスト
11:40
会場への入場ゲートもクローズしたところで、まずは11人のドライバーによる2周の慣熟走行がスタートしました。いわゆる慣らし走行です。ドライバーはコースの路面状況を確かめながら、カート、計測器などに不具合がないかをチェックします。当初は12台の出走を予定していましたが、エントリーリストは最終的に11台になりました。
エントリーリスト
車両No | ドライバー名 |
---|---|
1 | 関口 雄飛 |
2 | 大井 偉史 |
3 | 篠田 義仁 |
4 | 曽根 崇仁 |
5 | 松村 浩之 |
6 | 内田 優 |
7 | 小澤 浩二 |
8 | 永瀬 貴史 |
10 | 宮川 栄幸※ |
11 | KAMI※ |
12 | 高崎 保浩 |
※9号車は欠番
※10、11号車は賞典外
フリー走行
12:00 7分間のフリー走行開始。いよいよレースプログラムのスタートです。ここからはコース沿道の歩道の通行も禁止となりました。
チェッカー後は、時間短縮のためピットインせず、ホームストレートのグリッドに戻ります。これは前日のブリーフィングで決定しました。
予選タイムアタック
12:15
予選タイムアタックスタート。1周後、スタートラインで日章旗が振り下ろされたらタイム計測開始です。予選タイムアタックの様子は動画でご覧ください。
10分間の予選が終了。予選タイムの結果でスターティンググリッドが決定しました。
決勝レース
12:45
遂に歴史的な瞬間がやってきました。江津実行委員会の今井委員長の開催宣言とともに、日本初の公道を使った市街地グランプリの決勝レースがスタートしました。
決勝レースは20周。スタート直後からいきなりハイレベルなバトルが繰り広げられました。普段生活で使用している道路を、平均時速約60kmのカートが疾風のごとく駆け抜けていきます。安全性が高く重量も120kgあるレンタルカートとはいえ、本格的な四輪自動車レースに負けない迫力でした。日頃からカート競技には馴染みのある私たちスタッフもこれには驚きました。周囲で観戦していた地元住民の方々は手を振って応援し、大きな歓声が上がっていました。
実は、8コーナーで複数台を巻き込んだ多重クラッシュがありました。国道のロングストレートから市道に入ると路面状況が全く違うため、スピンしやすいのです。これも市街地ならではのアクシデントでした。
A1市街地グランプリGOTSU2020決勝レースノーカット版
島根県ケーブルテレビ協議会YouTubeライブ中継
※開催終了後1ヶ月間視聴可能
オフィシャルアンバサダー関口雄飛選手のレース後のコメント
「日本初の公道レースを開催するということで、自分の経験を活かして安全にレースができるように精一杯協力させていただきました。
今日はやはりレースなので、多少の接触はありましたが、事故なく、誰も怪我をすることなく終えることができました。
青白のバリア(GoTrack)がすごい働きをしていて、レース車両のダメージを最大限吸収してくれたのですが、それを設営してくれた約150名の地域のボランティアの方々のおかげで安全にレースができました。これがもしタイヤバリアやガードレールだったらもしかしたら事故になっていたかもしれませんが、皆さんの協力のもと、今日無事1日レースを終えられたことに非常に感謝しています。ありがとうございました。
そして市街地レースは始まったばかりです。
コロナで何とも言えないですが、今後もっと車が速くなったり、出場する選手が増えたり、コースも広くなったりと、来年以降は更に大会が大きくなることを願っています。それが江津市の一大イベントとなってさらに成長することを願って、自分もできることを精一杯協力したいと思います。
今年に限らず来年以降もぜひ応援よろしくお願いします。ありがとうございました。」
撤去も圧巻
13:30
レースから表彰式まで予定通り1時間半で終了しました。
「日本初の市街地レースが何事もなく無事終わった…」と一息つくも束の間、午後3時までにバリアを完全撤収し、原状復帰をして交通規制を解除しなければなりませんから、まだまだ気が抜けません。
しかし、その心配も杞憂に終わりました。
設営と同様に、撤去も1時間ほどで終えてしまいました。そして、予定より15分早い14:45には交通規制を解除することができました。ボランティアの皆さんの活躍は本当に素晴らしかったです。
次のステージへ
市道、県道、国道を6時間全面通行止めして行った公道スプリントレースは、日本では前例のない出来事でした。
今回の江津大会で、私たちが目指すグランプリシリーズ構想の「1年目―Breakthrough(現状打破)―」を成し遂げることできましたので、今後も当初の構想どおり、単なるレースに留まることなく、公道を使用した実証実験やテスト走行、新技術開発など産学の発展と技術革新に寄与するイベントの可能性を探っていきます。
実は今大会でもその片鱗がありました。
Formula EモナコGPでも公式清掃車として多く採用されているイタリアDULOVO社の日本総代理店マーテック社が、本大会のテクニカルサポーターとして参加。レースが開始前と終了後に道路清掃を実施していただきました。
マーテック社が運転したのは、日本初の電動式ロードスイーパー「D.zero2」をはじめとする小型車3台でした。このEVロードスイーパー、日本ではまだ未導入です。実はレース中も事故などの緊急時に出動できるよう、ピットで待機していました。
今大会中、商談の引き合いがあったそうです。新技術の発表や実験をする「まちの展示場」を目指す私たち主催者としては狙い通りでうれしい出来事でした。公道イベントは、多くの方々が新商品や技術を目にしたり、体験できるイベントなのです。
最後に
最後になりましたが、本大会が予定通り無事開催できただけでなく、奇跡的とも言えるほど円滑に物事が進み、大成功に終えることができたのは、多くの方々のご支援、ご協力あってのことでした。主催者一同この場を借りて心よりお礼申し上げます。
私たちは、このGOTSU2020に関わったスタッフ、ボランティア、ドライバー、観客、関係者の全員で、この消滅可能性都市と言われる江津市でこれまで見たことのない素晴らしい景色を創造し、日本初という感動の瞬間を共有できたことを誇りに思います。
本大会の開催には、多くの方からたくさんの支援をいただきました。取り組み開始から丸7年の間に、行政、道路管理者、警察、モータースポーツ関係者、地域住民の方や事業者様など、本当に多くの方の協力と支援なしではここまで到達できませんでした。
そして、8月に募集を開始したクラウドファンディングでも、全国から本当にたくさんの支援と温かい応援のメッセージをいただきました。皆さんお一人ひとりの気持ちがどれだけ私たちの励みになったか、感謝の気持ちを伝えても伝えきれません。本当にありがとうございました。
この日本初のチャレンジを通して、未来に向かって挑戦する姿が少しでも多くの方に元気と勇気を与え、地方の在り方や新しい社会・時代の可能性を感じていただけたら主催者一同とてもうれしく思います。そしてAnyone(誰でも)の名前のとおり、今後も誰もが参加できる市街地イベントを目指し次の目標へ向けて引き続き邁進してまいります。
ビフォー・アフター
関連リンク
- ・大会公式プログラム(準備中)
- ・ A1市街地レースクラブ公式YouTubeチャンネル
- ・ ボランティアスタッフ
- ・ 掲載メディア一覧